静岡新聞(夕刊)
2020年2月10日(月曜日)
熟成3年 静岡市発ウイスキー誕生
2016年に工場が完成した静岡市初のウイスキー蒸溜所「ガイアフロー静岡蒸溜(じょうりゅう)所」(同市葵区落合)でこのほど、設立当初にたる詰めした原酒が規定の熟成期間3年に達し、同蒸溜所初の「ウイスキー」が誕生した。
ガイアフロー蒸溜所
繊細「オクシズ」の味
記念すべき「第1号」は200㍑のたる2個分。その後に熟成3年を経過したものを含め、1月21日までにおよそ20たるが出来上がった。日本の酒税法にはウイスキーのたる熟成に関する規定がないが、スコットランド(英国)をはじめとする各国は3年以上の熟成が必須条件。同社は輸出を見据え、世界標準を採用した。
年末に試飲した中村大航社長(51)は「ライトで繊細な味わい」と表現。口に含んだ瞬間、会社を設立してウイスキー造りに乗り出した7年前、たる詰めした3年前からの道のりが、脳裏によみがえったという。
製造初年度は設備のトラブルに悩まされ続けた。粉砕した麦芽を仕込み水に移動するモーターが止まり、10日ほど作業ができなかった。製造スタッフは当初の3人から8人に増え、18年11月からは週3回の製造工程見学ツアーを始めた。前例のない事業の理解者が徐々に増えている。
ウイスキーは夏まで熟成を重ね、今秋に瓶入りを一般販売する。秋からは仕込み量も倍増させ、貯蔵庫も増設する予定。多くの見学者に対応する施設や人員も充実を図る。中村社長は「蒸溜所来訪を静岡市の中山間地『オクシズ』の美しい景観やおいしい食材を知ってもらう契機にしたい」と願いを込めた。(社会部・橋爪充)
高まる国産人気
国産ウイスキーは近年、ハイボールの定着などを受けて市場拡大が続いている。日本洋酒酒造組合によると、2018年の出荷量は14万8000㌔㍑で10年前の2.4倍に達した。追い風を受け、県内ではガイアフロー静岡蒸溜所以外にもウイスキー製造の動きが業界の垣根を越えて相次ぐ。
磐田市の千寿酒造は17年1月に自社製のブレンデッドウイスキーを発売。担当者は「国内外で需要が高い。しばらくこの状態が続くだろう」と話す。
特種東海製紙(東京)は静岡市葵区の社有林に10億9000万円を投じて蒸溜所を建設中で、7月の酒造免許取得、仕込み開始を見込む。7年以上熟成のシングルモルトウイスキー製造を目指す。サッポロビール静岡工場(焼津市)も19年7月、ウイスキーの製造免許を取得した。
1973年からの“老舗”で、「富士山麓」ブランドなどで知られるキリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所(御殿場市)は熟成貯蔵庫を拡充予定。2021年夏に生産能力を2割ほど拡大させる。