日本経済新聞
2019年8月18日
国産ウイスキー、さらに活況へ
新生マイクロ蒸溜所
日本産ウイスキーの世界的な人気も踏まえ、近年、全国に小規模蒸溜所が誕生している。
来年には、欧州の基準を満たす3年以上の熟成に達する銘柄もあり、まもなく瓶詰め工程が始まる。
そこでボトルの小売りに先立ち、蒸溜所を訪れて、蒸留原酒を試飲してみるのは一興だ。
静岡市の中心から北へバスで1時間ほど。安倍川の支流、中河内川沿いに<ガイアフロー静岡蒸溜所>のモダンな建物が見えてくる。そこは、「オクシズ」の愛称で知られる奥静岡地域。ウイスキー原料である大麦麦芽の発酵を促すのに適した中硬度の水が豊富であり、清涼な空気に満ちた自然豊かな場所だ。
代表の中村大航さんは元々、酒造とは無関係な家業の精密部品メーカーを経営。新たな事業を計画中、旅行で訪れたスコットランドで、新規参入ながら世界的に評価が高い小規模蒸溜所に心を揺さぶられた。これをきっかけに、まずはウイスキーの輸入販売業に着手。業界内に人脈を築き、ウイスキー製造の研究を重ねる。その後、製造設備の準備と蒸溜所の建設用地探しを進め、発案の4年後に当たる2016年、蒸溜所竣工に至った。
「静岡のこの場所、オクシズでしか出せない風味を目指しています」とは中村さん。麦芽を糖化させた麦汁を入れる発酵槽には、静岡産の杉製木桶を使用。酵母だけでなく、杉や周辺の空気に潜む乳酸菌や微生物によって、麦汁の発酵で生まれた醪に個性を吹き込む。
この醪をポットスチル(蒸溜器)で2度蒸溜しアルコール分を凝縮させるが、ポットスチルの構造によっても、原酒の味や香りに違いが現れるという。同蒸溜所では、初溜に異なる2種類のポットスチルを使用。ひとつは、英国で特注した薪直火式。もう一方は、旧軽井沢蒸溜所の設備を修繕し再生させた蒸気加熱式だ。それぞれ再溜を経て、ポットスチルの種類別に樽詰めされる。
一般販売の目安である3年以上の熟成を経たボトルの発売は、来年夏以降を予定。瓶での小売り開始前の現在は、樽ごと購入できる制度を設けている。樽オーナーになれば、蒸溜後抽出したばかりの原酒「ニューメイク」を小瓶に詰めて提供してくれる。