中日新聞 しずおか版
2018年11月08日
葵区・ガイアフロー蒸溜所
静岡ウイスキー熟成中
静岡市葵区の山あいで三年前から進むウイスキー造りがベールを脱ぐ。オクシズ(奥静岡)の入り口にひっそりとたたずむガイアフロー静岡蒸溜所。今月下旬に初めて公開される見学ツアーに先駆け、その酒造りの現場を訪ねた。(牧野新)
JR静岡駅から車で四十分。安倍川支流の玉川沿いに県産木材をふんだんに使ったモダンな建物が現れた。針葉樹の茂る山あいに甘酒のような香りが漂う。
「水も空気もきれいで、美味しいウイスキーを造る条件がそろっている」と代表の中村大航さん(49)。
ウイスキーに必要なのは大麦、水、酵母。麦芽の粉砕に始まり、糖化、発酵、蒸留とそれぞれの工程に手間をかけ、たるで長期間、熟成させる。中村代表がその工程を公開してくれた。
蒸留所は広さ約二万平方メートル。まずは八機の発酵槽だ。四機は県産の杉、もう半分は米国産の松でできている。槽の中で酵母と大麦の糖分が合わさってアルコールが生まれる。
ふたを開けると、梨のような甘い匂い。別の槽からはヨーグルトのような香り。発酵が進むうちに香りは変わっていく。
続いて大麦の貯蔵槽や粉砕機、糖化槽など。細かく砕いた大麦を熱湯と混ぜ、糖分を抽出する糖化の工程だ。
次はヒョウタンのようにくびれ、鈍く輝く蒸留機。沸点の違いを利用し、アルコールと香り成分を取り出して原酒を造る。静岡蒸溜所は「世界でここだけ」(中村さん)の薪で加熱する蒸留機と、軽井沢蒸溜所から受け継いだ蒸留機がある。
中村さんいわく「どちらを使うかで味が全く違う」。
その後、蒸留を終えた酒は貯蔵庫に行き着く。ここから長い眠りを重ね味は深みを増す。棚に横たわる数百たる。その数は年々増え、静岡蒸溜所の歴史が作られていく。
締めはいよいよ、テイスティング。二つの酒を薦められた。一つ目は重厚な甘みがゆっくりと広がり、二つ目は口に入れた瞬間にふわっと軽やかに香る。最初の酒は薪で蒸留され、もう片方は軽井沢から受け継いだ蒸留機で造られていた。
同じ日、同じ材料で造られたのに蒸留の仕方で味は全く違う。熟成が進んだらどんな味になるのだろう。静岡育ちのウイスキーの将来に思いをはせる。
初の見学ツアーは二十二日にある。十二月五日からは平日午後に一度ずつ。入場料は税抜き千円。テイスティング代は別途必要で、一杯数百〜千数百円。事前予約が必要。(問)ガイアフロー=054(292)2555