【メディア】ウイスキー通信 No.23 2014 November [アムルット蒸留所 ブランドアンバサダー アショック・チョカリンガムさんに聞く]

【メディア】ウイスキー通信 No.23 2014 November [アムルット蒸留所 ブランドアンバサダー アショック・チョカリンガムさんに聞く]

ウイスキー通信 No.23 2014 November

編集長インタビュー
アムルット蒸留所 ブランドアンバサダー
アショック・チョカリンガムさんに聞く

なぜ世界は称賛するのか インド産ウイスキーの魅力に迫る!

9月に行われた東京バーショーのために来日したアムルットのブランドアンバサダー、アショク・チョカリンガムさんに、知られざるアムルット蒸留所の歴史や製造方法などについて、編集長がインタビューをした。

“インドのシリコンバレー”で生まれたアムルット蒸留所

土屋:アムルット蒸留所は、インド南部・カルナータカ州の州都バンガロールにあると聞いていますが、ここはどのような都市ですか?

アショク:人口約1,000万人の、多文化が入り混じる都市です。インドの5大IT企業であるTCS、Wipro、Infosys、Satyam、HCLのうち2社が本社を置き、残りの3社も支社を置いている、まさにIT業界の中心地と言える場所です。

土屋:いわばインドの“シリコンバレー”ですね。インドは多言語国家で14の準公用語があるといいますが、バンガロールでは、ヒンドゥーとは全く異なる言語を使用しているのですか?

アショク:はい。インドの公用語はヒンドゥー語ですが、バンガロールではカンナダ語を使用しています。全くヒンドゥー語とは違います。

土屋:なるほど。そのバンガロールからアショクさんは今回初めて来日されたそうですが、日本の印象はどうですか?

アショク:とても素晴らしいです。日本人はとても親切な人たちだと伺っていましたし、ウイスキー市場にも力を入れていて、消費者がウイスキーのことをよく知っていると感じます。どこにいってもウイスキーを見かけますね。ウイスキーというと今まではスコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダの蒸留所を思い浮かべるのが当然でしたが、業界がここ30~40年以上困難としてきた「新たなカテゴリー」を日本が作ったことで、今や日本のウイスキーは無視できない存在になっています。実際ここ数年、ウイスキー雑誌を見ても日本のウイスキーは多く取り上げられています。そういう意味で、「美味しいウイスキーは世界中にあるのだ」という意識を、世界中の消費者にイメージづけました。私も日本のウイスキーメーカーに高い関心を持っています。

土屋:もう日本の蒸留所はどこか行かれましたか?

アショク:いいえ、まだです。時間がなくてまだ調整できていないので、インポーターの方に文句を言っているところです(笑)。次回は是非3~4日滞在日数を増やしてサントリーの白州や山崎、イチローズの秩父に行きたいと思っています。ドイツのウイスキーフェアなどで伊知郎さんにはお会いしたことがあり、良い友達づきあいをさせてもらっています。

蒸留所の歴史とインド神話

土屋:ところで“アムルット”とはどういう意味ですか?

アショク:世界最古の言語で、インド語のルーツとも言われているサンスクリット語で「Nector of Hindu Gods」(ヒンドゥーの神々の美酒)を意味します。ヒンドゥーの神話によると、「乳海」と呼ばれる原初の海に様々な素材を投げ入れ1000年撹拌して作られた酒があり、それを“アムリタ(=アムルット)”と言っています。そのアムリタは飲む者に不死を与えるとされる神秘的な飲み物です。そのためインド初のシングルモルトウイスキー蒸留所の名前にふさわしいと、この名前を選びました。

土屋:なるほど、不老不死の薬ということで“霊酒”と言っているんですね。1984年にアムルット蒸留所は創業したと聞きましたが、そもそも誰がどのような目的でつくったのですか?

アショク:私どもの創業者はラダ・クリシュナというものです。インドがイギリスの植民地だった頃に、ウイスキー造りが始まりました。インドで最古の蒸留所は、1820年代にヒマラヤでイギリス人のエドワード・ダイアーという人が作ったカソーリ蒸留所です。これがインド初の蒸留所ですが、ここからウイスキーを飲む習慣が始まり、今ではインドは世界で最も大きいウイスキー市場となっています。ラダ・クリシュナはこの蒸留ビジネスに興味を持ち、インドがイギリスから独立した翌年の1984年にアムルットを創業しました。彼は大学で科学を専攻し、ブレンディングやボトリングにも興味を持っていました。ラムを1975年に造り始め、1978年にはブランデーを、1987年にモルトウイスキーを造り始めました。ラム、ジン、ウォッカ、なんでも造っていました。現在はシングルモルトのアムルットのみを輸出していて、その他は国内で消費しています。

土屋:当初は連続式蒸留機でラムなどを造っていたということでしょうか。恐らく今はポットスチルを使用していると思いますが、その前は何を使い、いつからポットスチルを導入したのですか?

アショク:私たちは蒸留所内に3つの異なる設備を備えています。ラム、ジン、ウォッカなどはコラムスチル(連続式蒸留機)で造り、ブランデーだけはポットにコラムが付いている特殊なブランデーの蒸留機(アルマニャック式)を使っています。ポットスチルは1987年から導入しています。

土屋:なるほど。現在、ポットスチルはいくつあるのですか?

アショク:3つです。1基の初留釜(ウォッシュスチル)と2基の再留釜(スピリットスチル)を用いて2回蒸留しています。なぜ3つのスチルがあるかというと、もともとモルトウイスキーを造り始めた頃は、ポットスチルはストレートヘッド型の2基しかありませんでした。しかしもう少し異なるタイプの原酒もほしかったので、3基目は胴の部分がくびれたランタンヘッド型を採用しました。ラインアームも下方に付けられていましたから、ヘビーなモルトしかできなかったのですが、申し越しライトなものが欲しかったので、3基めのスチルはラインアームも上向きに取り付けています。

原料と特殊な製造方法

土屋:たしかバンガロールは標高1000m程の相当高地にあるかと思いましたが?

アショク:はい、アムルット蒸留所は標高900mのところにあります。

土屋:使用している大麦はどのようなものですか?

アショク:アムルットが使用している大麦は2種類あります。一つはインド国内のパンジャブ州やラジャスタン州で生産されているものです。特に北部のパンジャブ州はヒマラヤからの雪解け水があるので、大麦を育てるには理想的な環境です。しかし、この大麦はアルコール収量がヨーロッパ産に比べて劣ります。おそらくデンプン量が少ないのではないかと思います。そのため、1トンあたりから得られるアルコール収量は約340~350ℓ(100%アルコール換算)。スコットランドのものは約410ℓですから、そういう意味では、かなりイールドが低いと言えます。ただし、これを使うと全く違うテイストのウイスキーができるのです。もう一つはスコットランドから輸入しているスコットランド産大麦です。もちろん麦芽として輸入しています。

土屋:どこの会社から輸入しているのですか。それはピート麦芽ということですか。

アショク:インバネスのベアード社からで、ヘビリーピーテッド麦芽です。

土屋:2種類の麦芽の使用比率はどれくらいでしょうか?

アショク:たとえば、シングルモルトの“アムルット・フュージョン”は、インド産のノン・ピーテッド麦芽75%と、スコットランド産のピーテッド麦芽を25%の割合で使っています。しかしこれらを混ぜることは一切せず、それぞれ別に仕込み、蒸留、樽詰めしています。熟成後に初めてこのノン・ピーテッドモルトとピーテッドモルトをバーボン樽の中に入れてマリッジさせます。これとは別にアムルット・シングルモルト、カスクストレングス、インターミディエイト・シェリー、そしてポートノヴァなどがありますが、それらは100%インド産のノンピート麦芽です。そして、100%スコットランド麦芽を使用したのが、アムルット・ピーテッド・シングルモルト、ピーテッド・カスクストレングスなどです。

滞ることのない水資源と長時間発酵

土屋:仕込水はどこからですか、それとワンバッチの仕込量は?

アショク:蒸留所の水源は5㎞離れたココナッツプランテーションの中に300mの井戸を掘り、そこからくみ上げた水を100%使用しています。ワンバッチは0.9トン、麦芽900㎏で約4,850ℓの麦汁を得ています。一週間の仕込みは12回にに現在は設定しています。

土屋:イースト菌は何を使っていますか?

アショク:南アフリカのアンカー社製のドライイーストを主に使用しています。

土屋:発酵槽はどんなものを。

アショク:ステンレス製で容量1万ℓのものが6基。おそらく私どもは業界で最も長く発酵を行う蒸留所かと思います。発酵は7日間行います。

土屋:7日間ということは168時間。一体なぜ?

アショク:非常に低温で行う発行だからです。スコットランドは気温が低いので、単純にイースト菌を加えて発酵させるだけです。しかし、インドは気温が非常に高いので発酵は簡単ではありません。6基あるステンレス製の発酵槽はすべて、周りに温度を下げるためのウォータージャケットを取り付けています。発酵は15℃に冷やしてから始め、最終的には32~33℃で終えるという流れです。この温度調整があるため、長い時間がかかっているのです。

土屋:もろみのアルコール度数はどれくらいですか?

アショク:7%です。これを1基のウォッシュスチルに入れます。初留は9~9時間半。4,000ℓくらいのサイズにしては非常にゆっくりとした蒸留で、スローディスティレーションもアムルットの特徴です。再留も13~17時間かけています。

土屋:なるほど。それだけ銅との接触時間が長くなり、エステリーデピュアな酒質になるというわけですね。樽は何を使用していますか?

アショク:アメリカンホワイトオークの新樽、バーボン樽、これはファーストとセカンド両方を使っています。それにオロロソシェリー樽、ペドロヒメネスシェリー樽、そしてポート樽を使用しています。これら様々な樽をミックスし、ボトリングを行っています。私たちはすべてノンチル、ノンカラー、ノンフィルターで瓶詰めを行っていますので、色を見ていただければどれくらい自然で、ピュアなウイスキーかお分かりいただけます。

土屋:最終的なニュースピリッツとバレルエントリーのアルコール度数はいくらぐらいですか?

アショク:ニュースピリッツは75%でそこに水を加えて、バレルエントリーは63%まで落とします。

土屋:少しニューポットの度数が高いことを除けば、ほぼスコットランドと同じ手法ですね。ところで、アムルットでは今、シングルモルトしか作っていないですか。ブレンデッドウイスキーはどうでしょう?

アショク:両方造っていますが、ブレンデッドウイスキーはインド国内消費用のみです。輸出しているのはシングルモルトだけです。

“貪欲な天使”の分け前

土屋:モルトウイスキーの年間生産量はどれくらいです?

アショク:約20万ℓです。秩父は6万ℓと聞いていますので、その約3倍。少し大きいくらいですね。

土屋:思ったより少ないですね(笑)。夏場の暑い時期にも気候的に生産は可能ですか?

アショク:はい。先ほどの温度調整を行うことで、一年中ノンストップでつくれます。スコットランドの蒸留所は川から水を引いているので、水がなくなる夏は生産できないところがありますが、私たちは井戸水を使用するので、滞ることなく製造ができるのです。

土屋:ところでエンジェルシェアはどのくらいですか?

アショク:年間10%~16%、アベレージで12%くらいです。

土屋:すごい。台湾のカバラン蒸留所みたいですね。

アショク:そうですね。去年リリースした“グリーディエンジェル(貪欲な天使)”は8年間熟成させたので、樽詰め時360ℓだったのが、ボトリング時には274ℓが蒸散していて、わずか86ℓしか残っていませんでした。そこで「貪欲な天使」と名付けました(笑)。アムルット蒸留所はスコットランドとケンタッキーの中間くらいと言えますね。製造方法と原料はスコットランドによく似ていますが、湿度が低く、高温な環境はケンタッキー州と似ています。

土屋:実におもしろい!ちなみにアムルットのシングルモルトは輸出用だということですが、インドでは全く売られていないのですか?

アショク:少量ですが売られています。

土屋:インドではどのくらいの値段がするのですか?

アショク:アムルットのシングルモルトは2,200ルピー、フュージョンが2,700ルピー、ピーテッドが3,000ルピーです。1ルピーは、たしか日本円で1.78円くらい…。スコッチのシングルモルト、例えばタリスカー10年はインドでは5,900ルピーです。

土屋:それは150%の関税が含まれているということですね。

アショク:その通りです。

土屋:日本円にしてフュージョンが約4,860円、タリスカーが10,620円ですか。おもしろいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。ところで、アショクさんはバンガロールの出身なんですか?

アショク:いえ。生まれたのはマドラスですから、私も当初はバンガロールの言葉はわかりませんでした。

土屋:マドラスといえばタミル語ですね。インドは複雑ですね(笑)。

Ashok Chokalingam
アショク・チョカリンガム
アムルット・ディスティラリーズ社
ジェネラル・マネージャー
インターナショナル・オペレーション担当

2004年2月より2014年5月まで、イギリスに駐在し、アムルトのヨーロッパ地域のセールスを担当。
2008年ブラックアダーに提供したウイスキーがモルト・マニアックスのノン・プラス・ウルトラ賞を受賞し、欧州での知名度・人気を高めた。
2014年6月にインドに帰国し、バンガロール本社にて、アジア全域のセールスを担当している。

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