NHKプレミアム「新日本風土記」、11月26日放送回は「オクシズ」特集!
静岡蒸溜所にまつわる一部を抜粋してご紹介します。
—ただいま、列車は日本一の高さを誇る鉄橋、「関の沢鉄橋」を渡っております
高さは、川底から70.8メートルございます—
日本一の急勾配を走る大井川鐵道井川線。
今日の舞台は、人気の鉄橋を越えた、その先に広がっています。
静岡市中心部から70km。ずいぶん遠くまで来ましたが、まだ静岡市。
最近、ちょっと違う名前で呼ばれています。
「今ね、この辺オクシズって呼ばれてるんですよ。
旧安倍6か村、それと町の中のちょっと田舎というか、その辺をオクシズと呼んでいます」
奥静岡— オクシズ。市の面積の8割を占めますが、人口は1割足らず。
山の富と森の恵みをめぐって、家康や信玄が競い合ってきました。
その始まりは、金。江戸時代まで、オクシズは国内きっての金の産地でした。
今も—?
「それらしきものは出てますけども。ちょっと金色してるでしょう?」
「このぐらいのを持ってる人がいるそうです。金の塊ね」
静岡の特産、お茶もオクシズが発祥の地です。
年々人が減って静かだった茶畑が、最近賑やかに。
「大丈夫?玲子さん」
「どん百姓の嫁っ子をそんな甘く見ないで。訓練されていますから」
800年以上前、山を越えて信州から移り住んだ先祖が始めた、神秘の祭り。
タイムカプセルのように、オクシズに残った伝統の食べ物。
太平洋の側から見ているだけではわからない、ディープな静岡の旅です。
「神々しいというか、代々先祖様がつないできたっていう時間、重みみたいなものにすごく惹かれているのかなぁとは思います」
オクシズ 奥静岡
江戸時代、駿河国を支えていたオクシズの森。切り出された木材は江戸まで運ばれていました。
しかし、その需要は減り、今林業は厳しい状況に置かれています。
そんな中、山に活気を取り戻そうとしているのが、オクシズ生まれの繁田浩嗣(しげた ひろつぐ)さん。
地域おこしの会を通じて 木こりの仕事や生き方に触れ、8年前広告業界から転身しました。
繁田さんが山に入って3年後、このオクシズの木が思いがけない特産品の誕生に生かされることになります。
それは、ウイスキー。
昨年初めて発表され、話題を呼んだ、オクシズ産ウイスキーです。
山々に囲まれ、豊富な伏流水に恵まれた玉川地区。
急斜面を切り開いた平地に、蒸溜所があります。
5年前、ここでウイスキーづくりは始まりました。
中村 皆さん、静岡蒸溜所にお越しくださいまして、誠にありがとうございます。
代表の中村大航さんです。
以前は静岡の海沿いの清水区で、家業の精密機械工場を経営していました。
大のウイスキー好きでしたが、自分で造ろうと思ったのは、9年前のスコットランドの旅。
独自の製法を貫く小さな蒸留所に刺激を受けました。
中村 入ってすぐですね、こちらにございます… これは木製の発酵槽ということで、
この中で今もろみができてアルコールが発酵しているわけです。
麦汁を発酵させる樽。通常はアメリカ産の松ですが、中村さんはオクシズの杉を使っています。
中村 実際この静岡蒸溜所を造るときにですね、この場所を見て、
まだ何もないさら地の時だったんですが、
山を見たら結構林業が盛んなんだなということが非常によく分かってですね。
中村 何かこの山の自然の土地の恵みというのをウイスキー造りに活かしたいなあと思ったときに、
こういう木製の発酵槽を作ろう、作ってみようと。
そこで声をかけたのが独立したばかりの繁田さんでした。
繁田 なんかこれ見てて見とれちゃいました。かっこいいなあって。
中村 こういう色がついているところにもたくさん微生物が住んでいるっていう。
繁田 すごい本当嬉しいです。木だからこそみたいなところが生かされていて。
中村 そうそうそう。
日本酒づくりに使われる杉を、ウイスキーにも活かせないか。
中村さんのアイデアを受け、繁田さんはオクシズ中の山や林業家を周り、良質な木材を集めました。
繁田 最終的には本当に、オクシズの林業家みんな、威信をかけて出してくれたんで。
繁田 見るからにいい丸太が揃ったんで… 圧巻でした。
オクシズの木材が使われているのは、発酵槽だけではありません。
発酵後に熱を加える蒸留の工程でも、オクシズ産の薪を使っています。
選んだのは、あまり用途がなかった、杉の間伐材です。
蒸留は蒸気の熱を使うのが一般的ですが、中村さんは、ウイスキーづくりを学んだ大先輩から、直火蒸留のうまさを教えられます。
そして挑戦したのが、通常石炭を燃料にする直火蒸留に、薪を使うことでした。
火が入って1時間ほどすると、蒸留が始まります。
抽出されたウイスキーの原酒。
熟成前は無色透明です。
試行錯誤を繰り返すこと5年。
最初は薪の直火蒸留に半信半疑だったお客たちも受け入れてくれるように。
「結構、熟成感があるような感じがします」
「香りがものすごく立っている。鼻を近づけると、やっぱりものすごく香りがいいなって」
中村 この場所にあるものを使って、いる人の力を借りて、そうしてこういうものができているので。
いろんな方が関わってくれているのが、うちとしても本当にありがたいですね。
中村 こればっかりは、本当にお金ですぐに買えないもの。貴重なものです。
オクシズの森からの、古くて新しい恵みです。