アメリカン・エクスプレス・プラチナ・カードの会員向け情報誌「DEPARTURES」にガイアフロー静岡蒸溜所が掲載されました!
「ジャパニーズウイスキー新時代」という特集の中に紹介していただきました。
掲載箇所を抜粋しましたので、ご覧ください。
DEPARTURES SUMMER 2020
The Brand New Spirits ジャパニーズウイスキー新時代
−以下抜粋
静岡県静岡市にある、ガイアフロー静岡蒸溜所も、テロワールを意識したウイスキー造りで知られる蒸溜所である。JR静岡駅からクルマで約40分の南アルプスのふもと。木々に囲まれ、近くには川が流れる山間に同蒸溜所はある。
ガイアフロー株式会社の代表取締役を務める中村大航氏が、ウイスキー造りを志したのは、2012年に訪れたスコッチの聖地とされるアイラ島では比較的に新しいキルホーマン蒸溜所(2005年に蒸溜を開始)を訪問したことがきっかけだった。併設の農場で栽培した麦芽だけを原料としたウイスキー造りを標榜するなど、小規模ながらも独自のアイデアで世界に挑むその姿勢に触発された氏は、当時経営していた地元静岡で祖父の代より続く精密機器メーカーを親族に引き継ぎ、より“オンリーワンのものづくり”を追求すべくウイスキー造りの道へ。まったくの異業種からの参入にもかかわらず、果敢な挑戦を続ける同蒸溜所は、多くの注目を集めている。
「土地の個性を反映したウイスキー造り」を掲げる同蒸溜所の特徴のひとつが、杉のウォッシュバック(発酵槽)だ。8基あるウォッシュバックのうち4基に、林業の盛んな地元の杉材が使用されている。
「設置後それほど年月が経っていない杉材のウォッシュバックが、発酵に適した状態になるにはもう少し時間がかかるでしょう。しかし、それでも仕込み水と同じ水で育った地元の杉や土着菌である乳酸菌との相性もいいはずだと考えています。ウォッシュバックをつくっていただいた方も、アメリカ産米松製のものよりも、寿命が長いはずだとおっしゃっていました。いずれも仮説でしかありませんが、この土地ならではの味わいが生まれるのではないかと期待しています」。
こうしてできた醪が蒸溜されるポットスチルも実にユニークだ。そのヒントは、敷地内に積み上げられた薪にある。そう、同蒸溜所のポットスチルは薪直火型。そもそも直火方式(ガス直火のサントリー山崎蒸溜所や白州蒸溜所、石炭直火の余市蒸溜所など)自体が世界でも稀。おそらく世界で唯一の薪直火による加熱方式は、林業が盛んな土地の特徴を活かすために発想されたものだという。
「スコットランドでも石炭の前には薪を使用していたはずなんですが文献が見当たらず、すべてはゼロからのスタート。そもそも薪で大丈夫なのかと、沖縄でベーカリーを営む知人などに相談したところ、絶対にやるべきだ、と。火の質がちがうと言うんです」。
実際に、同蒸溜所にあるガスによる間接加熱方式のポットスチル(10年ほど前に閉鎖された軽井沢ウイスキー蒸溜所から買い入れたもの)で蒸溜されたものと比べても、その味わいには明らかな違いがあった。ガスのほうはライトでフルーティ。一方、薪直火で蒸溜されたものはヘビーでスウィート。ボディがしっかりとしていて、スモーキーな風味も感じられた。2種類のポットスチルを使い分けた原酒が豊かなハーモニーを奏でるモルトウイスキーは、3年の熟成期間を経て2020年の秋にリリースされる。
「我々が尊敬し、参考にしてきた偉大なジャパニーズウイスキーの系譜にある、バリエーションのひとつとして、愉しんでいただければ幸いです。さらに今後、どこまでテロワールにこだわるか。そこは試行錯誤の段階です」。
そう語る中村氏が見据えるのは「オール静岡」のウイスキー造りだ。茶の名産地を支える安倍川の豊富な伏流水に、地元の酵母を使用し、すでに地元産大麦麦芽での仕込みも試している。今後はさらに、地元の農業試験場や農家の協力を仰ぎながら、ウイスキー用大麦の作付面積を広げるなど、将来的な本格導入を視野に入れている。「このプロジェクトが、いろんな方々のお力添えによって、ようやく形になったのはウイスキーというロマンに満ちたお酒のおかげ。改めてその魅力を感じているところです」。
訪れた各蒸溜所で目にした原料やポットスチル、ウォッシュバックに関する前例のないさまざまな試みは、いずれもテロワールとしてウイスキーの味わいに大きな影響をもたらすはずである。蒸溜されたばかりの透明な液体の味わいは、新時代の到来を予感させるものだった。