ガイアフロー BASA プロフェッショナル・セミナー in 東京(2019年11月19日開催)のアスタモリス編として、セミナー全文を掲載します。
ガイアフロー BASA
プロフェッショナル・セミナー in 東京
【アスタモリス編】
話し手:アスタモリス
代表 バート・ブラネル氏
みなさん、おはようございます。アスタモリスです。
このセミナーを、どうやって始めようか、ちょっと考えているところです。というのも、ロビンの後だとかなりプレゼンがしにくいから(笑)。
私がウイスキーを飲み始めたのは、1994年、19歳の頃。
それまでは、アルコールは一滴も飲んだことがありませんでした。私の妻は、だから好きになった、と言ってたんですけどね(笑)
ある日、隠れ家的バーで働いている友人が、「バート、ウイスキーを試してみないか」と声を掛けてきたのです。
「僕がアルコールを飲まないのを知っているだろ? なんでそんなことを聞くんだよ。」
でも、その友人は熱心に説得してきました。ウイスキーとはこういうもので、こういう特色があって、と。
それで、「いいよ。持ってきてよ。」と言った私に、友人はジャックダニエルのシングルバレルを持ってきました。
味わった瞬間、電撃が走るようでした!
一瞬で恋に落ち、ウイスキーを愛してしまっていました。
その1週間後に、2回目のウイスキーをそのバーで味わいました。さらにその後、3回目のウイスキーを体験をしました。
でも、そのバーには3つしかウイスキーが置いてなかったんです。なので、もう他のウイスキーを試すことができない。
それで、今度は自分でウイスキーのボトルを買うことにしました。1本買って、2本目を買って、3本目、4本目…というように。
ある日、とうとう、スコットランドに行こう!と決意しました。アイラ島に1週間。どうしても、ボウモアと、ラガヴーリン、ブルックラディの3つの蒸溜所にに行ってみたかったからです。これは、自分が味わったことがある蒸溜所でもありました。
1998年、遠い昔の20代だった自分にとっては、その3つだけが重要だったんです。そのほかの蒸溜所は、名前も発音できないくらい。
初めて知った蒸溜所のウイスキーは、すごくピーティー。その味わいに夢中になりました。滞在中は、とにかく知らない味わいのウイスキーを、たくさんテイスティングをしました。そして、スーツケースをウイスキーのボトルでパンパンにして、ベルギーに帰りました。
その後、1999年に、ウイスキーのクラブを立ち上げました。
それから、ウイスキーの雑誌の刊行とブログの開設をしました。ブログは、モルトマニアックスと言って、ウイスキーに関する記事を英語でアップするものです。さまざまな国の24人のライターが書いた記事を、世界中の人が見ることができます。
この時、世界トップ5に入るほど素晴らしい蒸溜所に巡り合った時期でもありました。それは、インドのバンガロールにある蒸溜所(アムルット)です。
モルトマニアックスでは、200を超える銘柄のウイスキーをブランドでテイスティングし、審査をするというようなことも始めました。その結果を公表し、メダルを授与するのです。
審査銘柄の中には、ブラックアダーも含まれています。
そして、アムルットも。アムルットは、いつも高得点を獲得していました。2005年〜2006年頃に、インドの男性誌に招待されて、アムルットの記事を書いたこともあります。蒸留所を見学して、インタビューしたんですよ。
そして、2008年。私は、ベンリアック蒸留所にいました。1975年蒸留の樽からサンプリングをし、テイスティングをしていたのです。
信じられないほど美味しくて、自分のブランドを立ち上げようと思いました。その日が、アスタモリスが誕生した日です。
その樽を買って、初めてボトリングをしました。そこで思ったのが、「一体誰が、この見ず知らずのボトルを買うんだろうか」ということ。
でも、1週間後には完売。これが、アスタモリスの誕生秘話です。
その2年後のある日、facebookのメッセンジャー経由で連絡がありました。日本からで、面識のない人です。
「日本向けボトルのサンプルが欲しい」という内容に、ジョークかと思いました。友達が、ドッキリを仕掛けているのかと思ったくらいでした。
言われた住所にサンプルを送って、2週間後、「ボトリングをお願いしたい」と、連絡がありました。まだジョークだと思っていました。
信じられないまま請求書を送ったら、2日後に入金があったので、「ドッキリじゃない!」とわかりました(笑)。
その時の樽は、ボトリングされて日本へ。
2ヶ月後、今度は大航さん(ガイアフロー代表の中村大航)から、お誘いがありました。2014年9月に、東京インターナショナル・バー・ショーというイベントがあるから、来てみないかというのです。OK!と言って、日本に来ました。私は、いつもOKというようにしてるんです。
バー・ショーは、2日間。でも、誰も私に話しかけてくれませんでした。手を前に組んで、ずっと立っていただけ。
その時に、日本独特の文化があることを知りました。自分のことを知ってもらうことで、コミュニケーションが取れる、というような。なので、みなさんに覚えてもらえるよう、何度も顔をあわせる必要があると考えました。
初来日時、イングランドから来た人がいるという話を聞きました。その人の名前は、ロビン・トゥチェックです。
ロビン氏:「イギリス人は、そんなにいっぱい日本にいないよ」
まぁまぁ、先にもうちょっと話をさせてよ。
ロビンが教えてくれたのは、「日本というのは何度でも戻りたくなってしまうような魅力的な国」ということ。最初は、「はいはい、わかる、わかる」とお世辞だと思って聞いていたのです。
1週間後にベルギーに帰ってから、ロビンに「君が言ったこと覚えている?」と聞いてみました。ロビンは「よく覚えているよ」と。それで、言ったのは「教えてくれたよりも、ずっとひどい。(1週間しか経ってないのに)僕はもう日本に戻りたいと思ってるよ」。
初来日の時は年に1回、2年目は2回、3年目は3回。何度でも、日本に行きたくなってしまう。いつも僕を温かく迎え入れてくださって、ありがとうございます。そして、日本でたくさんの素晴らしいバーも発見することができました。
さっきロビンは、いくつかベルギーについてのジョークを言っていましたよね。私には、その理由がわかっているんです。昨年の、サッカーのワールドカップが原因です。ベルギーがイングランドを打ち負かしていたので、スコットランドを含めて、みんなベルギーを羨んでいるんですね。2週間で2回勝ってますから(笑)
さて、そろそろ、テイスティングを始めましょう。
先ほどたくさんのことをロビンが教えてくれましたが、私の伝えたいことも同じことなんです。
ロビンと僕は、ボトラーで、大体同じようなことをしています。ロビンの方が、きちんと仕事をしてるかもしれないけど(笑)。ロビンはさっき、「ウイスキーは楽しむことが第一」と言っていましたが、これは本当にその通りだと思います。
たまに、こんな人がいますよね?香りを嗅いで、点数を付けているような。そんな人を見ていると、楽しむことを忘れているんじゃないかなと思います。テイスティングした時に、「これはイマイチ」「こっちは、ちょっとマシ」「はい、次は…」というような、悪い面ばかり見るような人とか。
そうではなく、そのウイスキーのいい面を、もっと見て欲しいと思います。いい面を感じられると楽しいし、笑顔になれるから。その結果、ポジティブな人は、もっとポジティブになれるのではないでしょうか。それは、生き方にもつながることです。粗探しをしていると、やっぱりネガティブになっていくような気がします。
一番最初のウイスキーは、グレンゴインです。
グレンゴインは、とても「典型的」な蒸溜所。その理由は、ハイランドで蒸留されて、ローランドで熟成されるから。
グレンゴインの蒸溜所は、ローランドとハイランドの境目にある蒸溜所なんです。ローランドウイスキーなのか、ハイランドウイスキーなのか、悩むところですね。蒸留はハイランドでしているということを考えると、ハイランドウイスキーといった方がいいと私は思っていますけど。
アスタモリス フォー ガイアフロー グレンゴイン 「土山」 9年 2007/2016 48%
Asta Morris for Gaiaflow Glengoyne “Tsuchiyama” 9yo 2007/2016 48%
このグレンゴインは、リフィルのバーボン樽(2回目の樽詰め)で熟成されたものです。樽の成分の影響を比較的少なくしたい場合に、このようなリフィルの樽を使用します。蒸溜所そのものの個性を、うまく引き出すような役割を果たしてくれるのです。
ファーストフィルのバーボン樽(1回目の樽詰め)のような、まだ成分が樽に残っているような場合は、かえって蒸溜所の個性をかき消してしまうようなこともあります。
そう言えば、大企業のマーケティング広告を見て、笑ってしまうことがありました。
雑誌社の友人が、ある時、ある大手企業のウイスキーの記事を書いたんです。蒸溜所のマネージャーが、ボトリングをするために熟成庫に連れていってくれたそうなのですが、その時に、一緒に連れていった犬が粗相をしてしまったというんです。そんなことをコラムで大々的に取り上げるなんて!(笑)
でも、その記事でさらに面白かったのは、大手企業のマネージャーがボトリングした商品を「自らの手で選び抜いた(Hand selected)」と表現していたこと。とても大きな会社なのに、どうやってひとつひとつ選べるの?と思いました。
同様に、「クラフト」という言葉も、よく広告で使用されていますね。クラフト=小さいというイメージを持ちがちですが、小さい=良いではないわけです。私も、小さなスケールでビールを造ったりしますけど、必ずしも美味しいわけではありません。
さて、グレンゴインの話に戻りましょう。リフィルのバーボン樽で熟成させたものですよね。このウイスキーに対する、みなさんの印象を教えてもらえませんか?
テイスティングというのは、とても個人的なものだと思っています。味わいを表現することはできますが、実際どのような味なのかを完璧に共有することはできませんから。
どんな樽を選ぶか、それぞれの好みです。ウイスキーにコーラを入れる人もいますが、それも好みじゃないでしょうか。
ガンガ氏:「私なら許せないね。撃ち殺してしまうよ!(笑)」
中村大航:「そういえば、バートは、ダイエットコークを飲みながら、テイスティングしてたことがあったよね(笑)」
そう、ダイエットコークを飲みながら、テイスティングすることもありますよ。モルトマニアックスのテイスティングの時は、6つずつグラスが用意されています。1つずつノートをとって、審査をするんです。そんな時、ダイエットコークを間に飲んで、口の中をリセットしているんです。新しいものを飲むときには、いつも同じ状態から始めます。
今日、もし私が死ぬようなことがあったら、犯人は多分、ガンガですね(笑)。
次のウイスキーは、マクダフです。
これは2002年蒸留、2017年にボトリングされた14年もの。マクダフ蒸溜所というのは、港町にある蒸溜所で、港町の名前も同じくマクダフといいます。
先ほどと同じくバーボン樽ですが、より容量の大きいホッグスヘッドサイズの樽を使用しています。ホッグスヘッドの容量は、250ℓ。
アスタモリス フォー ガイアフロー マクダフ 『庄野』 14年 2002/2017 52%
Asta Morris for Gaiaflow Macduff “Shono” 14yo 2002/2017 52%
ロビンも私も、バーボン樽が好きですし、バーボン樽こそが王様と思っています。ということは、シェリー樽は女王かな。……これはジョークね。
このマクダフは、とっても、ものすごくフルーティー。バナナ、柑橘系、そしてマクダフ蒸留所の個性がよく感じられます。見ての通り着色も、冷却濾過もしていません。脂肪分と油分を残して、浮遊物だけを取り除いています。
ここでお話ししておきたいのは、水とウイスキーについてです。もしウイスキーの味が少し強かったり、あるいは少しアルコールが強くスパイシーに感じたら、何滴か水を足してください。自分にあった度数に調整して、好みの味わいを楽しんでくださいね。
昔、ジム・マーレイのテイスティング会に参加したことがあります。そのときに彼が言っていたのは、「加水をしないように」ということ。
3ヶ月後に、今度はジム・マッキュワンのセミナーに参加しました。ジム・マッキュワンと言えば、ブラックボウモアやボウモアフィノ、ホワイトボウモアなどを蒸留した伝説的な人物。その彼は、いつも必ず「水を足してください」と言っていたんです。
2人のジムの話に、かつての私は混乱しました(笑)でも、グラスの中に入ったウイスキーは、あなたのウイスキー。水を足すのも、足さないのも、自分で決めていいんです。
ロビンも説明していましたが、油分や脂肪分は、香りや味わいの元となります。加水をすると、香りが立ち上ってきます。
おすすめしないのは、氷を入れること。入れてしまった場合は、違った結果となります。氷の周りに、香りの元となる油分が集まって、ウイスキーの複雑な味わいがなくなってしまうのです。このような理由から、氷を足すことはおすすめしません。
ロビン氏:「加水する水の温度も、重要なポイント。常温の水を足すか、冷たい水を足すかによって、味もかなり変わってくる」
そうそう、それも同じこと。
アスタモリスでは、私自身の好みのと思われる量の加水をして、ボトリングをしています。45%、46%と一律に加水するブランドもありますが、本来それぞれ樽ごとに異なる個性があると思います。そのため、それぞれの味わいが開く度数になるよう、一つ一つ丁寧に調整をしています。
カスクストレングスでいいものはそのままでボトリングします。そのほかにも59%だったり、52%だったり。それぞれの個性が生きるよう、少しずつ調整しながら、ボトリングの度数を決めています。
でも、46%以下にすることはありません。40%でウイスキーをボトリングするなんてことは、法律で禁止されるべき!と思うくらいです。そんなことをする蒸溜所やボトラーは、脚に銃弾を撃ち込まれてもいいんじゃないでしょうか(笑)
3つ目のウイスキーは、「オークニー島のウイスキー」。
どこの蒸溜所のもの?というのは、よく聞かれます。ひとつヒントをあげましょう。蒸溜所の名前を言うことはできませんが、蒸留された2007年は、島内に2つある蒸溜所の内の1つ、スキャパ蒸溜所は休止していました。
アスタモリス フォー ガイアフロー シングルオークニー モルト 「大磯」 11年 2007/2019 58%
Asta Morris for Gaiaflow Single Orkney Malt “Oiso” 11yo 2007/2019 58%
この蒸溜所の特徴でもありますが、ピートの強さは、ローランド地方のノンピートのものとアイラのヘヴィリーピーテッドのものの、ちょうど中間くらいのように感じます。とてもエレガントで優しいピートの味わいと、ワクシーさ。ダルユーインやクライネリッシュのような印象もありますね。ディーンストンも、たまにこんな感じのものがあります。オランダのことわざで「ロバは、同じ岩にはぶつからない」というものがありますが、私の場合、ウイスキーに限っては、同じようなものに5回はあたっていますね。
この蒸溜所のウイスキーは、通常はブレンデッドウイスキーの原酒として使用されます。例えば、フェイマス・グラウスとか。まぁ、それでも蒸溜所名は言えませんけどね。
個人的に、私はこのウイスキーがとても気に入っています。自分の好きな味わいのウイスキーをボトリングするのが、インデペンデンボトラーですから。そして、ブラックアダーも、アスタモリスもそれぞれの好みに合うようなものを選んでいます。「自らの手で選び抜いた(Hand selected)」ということです。
ロビン氏:「どっちの手?」
ロビン!いつも私のことを見てるからわかるでしょう?左手ですよ(笑)
そんなに茶化して、まだ、ベルギーがサッカーで勝ったことを恨んでるんだね。
ロビン氏:「そんな大したことじゃない」
ガンガ氏:「1年前は、逆だったじゃないか。ベルギーが負けたでしょ?」
まぁまぁ、落ち着いて。
最後にご紹介するのは、みなさんご存知の蒸溜所、秩父です。(シャッター音がたくさんするので)ロックスターのようですね。ラベルのカエルは、「ぴょん吉」と言います。なので、言うなれば「ぴょんき秩父」です。
これで3回目となる、秩父とのコラボです。このぴょん吉ラベルに至るまで、ものすごく変わったいきさつがありました。
アスタモリスのラベルには、必ずカエルが描かれています。いつも同じカエルだったのですが、ある日突然、ぴょん吉からのメッセージを感じました。ぜひラベルで使いたいと思って、日本の友人に依頼して、ぴょん吉の著作権者と連絡を取ってもらいました。著作権者との打ち合わせをし、ボトル1本を使用料として渡すことになりました。なかなかお得な条件ですよね(笑)
ぴょんき秩父は、お手元にあるプラスチックカップに入っています。私は、5回目のテイスティングとなります。サンプルでもらったものを家でテイスティングをしたり、ウイスキーフェスティバル後にもテイスティングしました。
こちらも、樽はバーボン樽です。光栄なことに、これで3回目のコラボとなりますが、これまでの3回とも、全てバーボン樽熟成のウイスキーでした。好みはありますが、私は秩父のウイスキーは、バーボン樽熟成の方が好みです。秩父の個性が、よりはっきりと出ていると感じています。
最初のものは5年、2回目のものが6年、今回のものは7年になります。
実は、「アスタモリス×秩父の30周年記念コラボ商品の27年熟成」です。冗談ですけどね(笑)。
さて、アスタモリスのウイスキーをテイスティングしていただいて、ありがとうございました。あらためて、みんなで秩父で乾杯しましょう。
会場一同:「カンパイ!」