ガイアフロー BASA プロフェッショナル・セミナー in 東京 【アムルット編】

ガイアフロー BASA プロフェッショナル・セミナー in 東京 のアムルット編として、セミナー全文を掲載します。

セミナーに参加できなかった方必見です!


ガイアフロー BASA
プロフェッショナル・セミナー in 東京
【アムルット編】
話し手:アムルット アンバサダー
ガンガ・プラサド氏


本日は、お越しくださいましてありがとうございます。また、アムルットのウイスキーのテイスティングをしていただけること、感謝しています。

先ほどのブラックアダー&アスタモリスのセミナーから、引き続き参加している方もいらっしゃいますね。彼らのセミナーでは、ウイスキーの取り扱いの難しさや、どうやって樽を選ぶかなどを知ることができたと思います。インデペンデントボトラー(独立瓶詰め業者)のセミナーですからね。

私は、蒸溜所の人間として、彼らとは違った形でウイスキーを紹介したいと思います。
ボトラーは、自分たちで樽を選び、ボトリングしていますが、私たちはそういうわけにはいきません。そういったことを、スライドで紹介していきます。アムルット蒸溜所について、どのような経緯でウイスキー事業に乗り出したかなども説明いたします。
そして、製造している中から、3つの特徴あるウイスキーをテイスティングしましょう。皆さんを、退屈させないように頑張ります。

アムルットの蒸溜所は、1948年に建てられました。1947年までは、イギリスの統治下にありましたから。

1948年に、ラダクリシュナ・ジャグデールが率いる、ジャグデール・グループによって、アムルットは設立しました。初期のアムルットは、ジャグデールが薬剤師だったこともあって、製薬会社として始まりました。

みなさんご存知の通り、咳止めシロップには、少量のスピリッツが含まれています。そのようなスピリッツを、もっとたくさん作ってお酒として販売しよう、というところからアムルットのお酒作りはスタートしています。

1950年代に、ラムの蒸留を始めました。これは、インド国内のみで流通していたものです。

1970年には、地元のぶどうを使ったブランデーの製造をしていました。季節限定のブランデーで、「バンガロールブルー」という名前です。

この写真は、アムルットの会長であった、故ニーラカンタータ・ラオ・ジャグデール氏。彼は「インドのシングルモルトウイスキーの生みの父」です。

1980年に、ウイスキー製造がスタートしました。地元のブレンデッドウイスキーのためです。当時は、シングルモルトについての知見がありませんでしたし、またインド市場自体にシングルモルトの需要もありませんでした。

さて、ウイスキー製造の初期の段階、まだまだ樽が熟成途中の時の話です。当時は、他に何をしたらいいかわかりませんでした。というのも、インド市場においては、ブレンデッドの製品が大半を占めていたためです。

2002年に、ラクシット・ジャグデールはニューカッスルに行き、そこからいくつかサンプルを取ってきました。ラクシットは、現在は偉大な会長であり、社長でもあります。
そのサンプルをロンドンのバーに持ち込んだラクシットは、バーテンダーやお客様に試してもらいました。その感想を聞くと、「18年ものだよ」「いやいや、10年もののスコッチだよね?」というようなものでした。

つまりアムルットのウイスキーは、それほどまでにクオリティの高いものだということ。それで私たちは、シングルモルトとして商品化することを決めたのです。

そして、2004年。最初のアムルットのシングルモルトウイスキーが発売されました。スコットランドのグラスゴー、カフェインディアというバーでのことでした。

ここで、ウイスキーのテイスティングをしてみましょう。
グラスゴーで2004年にお披露目された、シングルモルトウイスキーです。

アムルット インディアン シングルモルト ウイスキー 46%
AMRUT SINGLE MALT INDIAN WHISKY 46%

バートやロビンが言っていたように、私もこのウイスキーについて、(香りを嗅いで)「バナナのような香りがする」などといったことをお伝えするつもりはありません。みなさんの嗅覚や、味の感じ方は、それぞれ異なるからです。

例えば、私がインディアンスパイスの香りといっても、インディアンスパイス自体を知らなければ、なんのことかわかりませんよね。私も、日本固有の何かの味わいについては、多分わからないと思います。
ですから、まずはみなさん自身の、嗅覚と味覚をもとに、ウイスキーを味わって見てください。そして、それがどんな味だったのか、教えてもらえますか?

このウイスキーは、インドで作られた麦芽を100%使用したものです。
この麦芽は六条大麦で、かなりタンパク質も多く、また繊維質も豊富に含まれています。スコットランドの麦芽は、二条大麦です。

このような違いがあるのですが、みなさんどう思われますか?教授と話しているセミナーではないので、気軽に飲んで、感想を教えてください。

2004年にお披露目をしたのですが、誰もインディアンウイスキーを飲もうとしなかったので、かなり大変でした。インド産ということで、正しくないイメージが先行してしまったのです。ブレンデッドではないかとか、ウイスキーと言いつつも、実際はモラセスなどを使用したスピリッツではないか、というように。だから、飲んでみようという人がいなかったんです。だって、インドがシングルモルトのウイスキーを造れるとは思いもしませんからね。

アムルット蒸溜所は、初めてEUに輸出することを認められた、インド初の企業となりました。先ほどもお伝えしましたが、最初はブレンデッドウイスキーだと思われて、なかなか試してもらうことができませんでした。

そんな中、2009年に、アムルットのフュージョンが、ウイスキーバイブルで「世界で最も優れたウイスキー」として第3位の地位を獲得しました。そして、モルトマニアックスなどでも多くの賞を獲得していくのです。モルトマニアックスには、私の友人でもある、アスタモリスのバート氏も在籍していましたね。
コンテストなどを通じて、アムルットの美味しさが知られるようになりました。アムルットは、全く違う背景を持った、今までと異なる味わいのウイスキーだということです。

そのウイスキーを試してみましょう。まず香りを嗅いで、味わう。どんな感じか、教えてください。

アムルット フュージョン 50%
AMRUT Fusion 50%

「フュージョン」とは、コンビネーション(融合)を意味します。ピーテッドモルトと、アンピーテッドモルトのコンビネーションです。
アンピーテッドのものは、インド産の麦芽。ピーテッドのものは、スコットランド産の麦芽です。というのも、インドにはピートがないからです。

アンピーテッドのタイプがお好きな方もいますし、ピーテッドのタイプがお好きな方もいますよね。新しいものを試してみたい方、変わったものを飲んでみたい方もいらっしゃいます。ヘヴィリーピーテッド以外であれば、ね。

そういうところで言えば、フュージョンはいわば架け橋のようなウイスキーだと思います。ピーティーな味わいがお好きでなくとも召し上がっていただけるよう、ピーテッドのウイスキーの使用量は25%にとどめました。それ以上だと、味わいがきつくなりすぎてしまいます。だいたい35ppmくらいですかね。

参加者:「35ppmくらいというと、だいたいボウモアと同じくらいということですか?」

そうですね。だいたい同じレベルです。正確なところは確かめようがありませんが、35〜45ppmくらいと考えています。

フュージョンのリリースから、段々と認知度も上がってきました。インドのシングルモルトもなかなかいいじゃないか、と言ってもらえるようになったのです。今では、46以上の国々で販売をしています。

このような積み重ねが、アムルットには必要でした。しかし、私たちインド人はこだわりが強い人間です。
スコットランド人だったら「OK、これでもういいかな」と思ったり、ヨーロッパの人のように「ある程度売れてるからいいや」となるかもしれませんが、インド人はそうはなりません。

アムルット蒸溜所もその例にもれず、クレイジーで、実験的気質で知られています。スコットランドの蒸溜所には、毛嫌いされています。なぜなら、アムルットの実験は多岐に渡るから。スコットランドではできない、インドでしかできないウイスキー造りをしているのです。

次は、麦芽について。私たちのクレイジーな実験については、また後ほどお話しします。
インド産の大麦は、パンジャーブ州やラジャスタン州で栽培されます。デリーで精麦を行い、トラックで3000㎞離れたバンガロールまで運んできます。バンガロールは、アムルットのある場所です。

シングルモルトに欠かせないものは、大麦と酵母と水です。スコットランド産の二条大麦と、インド産の六条大麦の違いもご覧ください。ピーテッド麦芽は、スコットランドのインヴァネスから運ばれてきます。スコットランドの機械で収穫された大麦は、スコットランドのピーテッド麦芽になります。インド人に収穫された大麦は、(最初に試飲した)インディアンシングルモルトのための麦芽となります。

こちらが、みなさんご存知のピートです。ウイスキーに、スモーキーな香りを与えるものですね。ピートは、インドにはありません。寒い地方にしか存在しないのです。

そして、ウイスキーの製造工程について。粉砕、糖化、発酵、蒸留の工程です。このスライド自体は、韓国でのアムルットのリリースの際に、プレゼン資料として作ったものです。日本語の部分は、大航さん(ガイアフロー代表中村大航)が5分くらいで付けてくれました(笑)

これは新しい蒸溜所です。
55ヶ国くらいの国から需要があるのですが、問題も出てきました。需要に応えるだけの十分な量の在庫がない、ということです。アムルットがこんなにも成功するだなんて、思ってもみませんでしたから。

昨年、新しい蒸留所が稼働し始めました。2倍の生産能力でもまだ足りないと思ったので、3倍の生産能力になるようにしました。(新しい蒸留所には)初留の蒸留機と再留の蒸留機を2基ずつ設置しています。従来の蒸溜所には、初留と再留で1基ずつ。それに2基ずつ新設したので、合計で3倍の能力を発揮できるようになっています。

アムルットでは、さまざまな樽を熟成に使用しています。それはインドの気温が関係しています。
アムルットは海抜3,000フィート(約900m)で、夏は大体20℃〜40℃、冬場でも17℃〜30℃ほどと、冬とは言えないような気候です。6月〜8月には、降水確率が85%、平均的な湿度は40%になります。

最近は、気候の変動が激しくなっています。台風が来たり、あるいは海の方から強い風が吹いたりします。貯蔵庫の近くまで、雨水が溜まってしまうなんていうこともありました。

アムルットでクレイジーで実験的なことができる理由は、この気候のおかげです。特徴的な気候のため、熟成が早く進むのです。
「エンジェルズシェア」という言葉を聞いたことがありますか?あるいは「蒸散」とか。
毎年、樽に入ったウイスキーは蒸散していきます。スコットランドでは1%〜2%、アメリカだと5%〜6%くらいの割合です。アムルットの場合は、毎年10%〜12%がエンジェルズシェアとして失われます。

エンジェルズシェアが大きいため、ウイスキーは早く熟成しますが、その分失われる量も多いのです。ボトリングするのに、12年も待たなくていいという利点はありますがね。

熟成環境の比較も見てみましょう。どうですか?スコットランドとアメリカ、そしてインドのアムルットの比較です。3年熟成でも、スコットランドではあまり減っていませんが、インドのアムルットだとほとんど半分なくなってしまうのです。

(スライドでの商品紹介)
次のスライドは、インディアン・シングルモルトです。先ほどお試しいただいたものですね。
そして、ピーテッドタイプのインディアン・シングルモルト。スコットランド産の麦芽を使用しています。
それからアムルットのフュージョン。

アムルットでは、だいたい35種類の商品ラインナップがあります。限定の商品は、大体4年ごとにリリースされます。
例えば、こちらの「アムルット トゥー・コンチネント」と呼ばれる商品。限定品のためここにはありませんが、「2つの大陸」を意味しています。まず最初にインドで蒸留してバーボン樽で熟成、その後スコットランド出荷し、さらに熟成させるのです。インドで3年間熟成させ、またスコットランドで3年間熟成させます。

次は、カダンハムと呼ばれるシングルモルトウイスキー。私たちのクレイジーさの証明とも言えるウイスキーです。
90%がインド産麦芽のウイスキー、10%がスコットランド産のピーテッド麦芽のウイスキーを使用しています。まず3年半バーボン樽で熟成させ、その後6ヶ月間をラム樽で、次の6ヶ月間はブランデー樽で、最後の6ヶ月間はシェリー樽で熟成させました。いろいろな種類の樽を経て、ボトリングされたウイスキーです。

アムルット カダンハム シングルモルト ウイスキー 50%
AMRUT Kadhambam Single Malt Whisky 50%

もう一つ紹介したいウイスキーは、ナーランジというウイスキーです。みなさんのテーブルにもありますね。

アムルット ナーランジ シングルモルトウイスキー 50%
AMRUT NAARANGI SINGLE MALT WHISKY 50%

ナーランジというのは、さまざまな国の言葉でもオレンジを意味しています。みなさん「どうやってオレンジのウイスキーが出来るの?」と疑問に思うようですね。

まずは、スペインからオロロソシェリーを輸入します。中身が入ったシェリーの樽に、オレンジの皮も加えます。そして2年間、シェリーを熟成させるのです。その後、樽からシェリーとオレンジを払い出し、空になったところに3年熟成のアムルットのウイスキー入れます。そしてさらに2年間熟成させます。合計で5年熟成のウイスキーです。このような実験的な試みも、アムルットがクレイジーと言われる所以です。

35アイテムもあるアムルットの商品を、私は20ヶ国あまりに紹介をしています。もちろんどの商品のこともきちんと覚えているのですが、それぞれの特徴を捉えられるように独自に名前をつけています。ナーランジは、「瓶に入ったオールドファッションド」。
グラスに氷を入れて、ナーランジを注ぎ、レモンを加えてみてください。素晴らしいオールドファッションドが愉しめますよ。
35ものウイスキーのラインナップから、先ほどみなさんにお試しいただいたように、ご紹介していくのは大変光栄なことです。そのために、ひとつひとつの個性を捉えるようにしています。

みなさんが味わったことが全てです。どのように感じたか、教えていただけますか?

参加者:「最初は、オレンジのフレーバーがくるけど、後から、モルトの香りがくるように感じる。」

ありがとうございます。素晴らしい。
「アムルットでは、長熟のウイスキーはありますか?」と聞かれることがあります。アムルットの長熟のウイスキーは、グリーディーエンジェルズ(欲張りな天使)という名前です。
これは特別なアイテムで、まず10年熟成がリリースされ、次に8年熟成、そして1バッチのみですが12年熟成をリリースしています。

グリーディーエンジェルズの12年熟成が、1バッチだけだったのには理由があります。10年以上のウイスキーの熟成をするには、アジアの温暖な気候はとても危険を孕んだものだからなんです。

あ、もう時間切れ?もう少し話せますか?よかった。
さて最後に、もう少しグリーディーエンジェルズのことをお伝えします。12年熟成には10樽の樽を使用したのですが、ボトリングされたのは、たった106本。このように(12年でも)ウイスキーが蒸発してしまうということが、温暖な気候で熟成されることのリスクなのです。

時間が来てしまったので、このへんで終わりにしたいと思います。みなさんが、インドのウイスキーを楽しんでいただけたなら、光栄に思います。ありがとうございました。

中村大航:「ガンガさん、どうもありがとうございました。インドのアムルット、最初に日本で紹介された時は怪訝な感じでみなさんみていたと思うんですけど。今日、飲んでみていかがでしょうか?造りもトラディショナルで、造っている設備なんかも、全部インド製の機械なんですね。ものすごく自分たちの造りに誇りを持ってやっていて。実際、いまヨーロッパやアジアの国々で、アムルットは大人気なんです。例えばこのインディアンや、フュージョンはスタンダード商品なので、インド国内でも販売しています。ただ、ナーランジなどの他の限定品のボトルは、インド国内ではほとんど販売していなくて、ヨーロッパとかでしか販売していないのです。日本では、一旦スコットランドに行ったものをまた輸入して入れています。うちは、オンラインショッピングサイトに英語で掲載しているんですよ、商品名を。そうすると、ヨーロッパからオーダーが入っちゃう。で、あるだけくれ、と(言われてしまう)。アムルットフィーバーという愛好家のグループがあるんですけど、腕にアムルットのロゴのタトゥーを入れているような熱狂的なマニアな人たちが、今世界中でアムルットの限定的なものに熱狂している。まだまだうちが、日本ではそれを伝えきれていないので、今日はそういう意味では非常にいい機会になったかと思います。」

ひとつだけ言わせてください。アムルットフィーバーというグループは、昔からあるものではないんです。ある一人のファン(デニス・ステッケル)によって立ち上げられたグループです。企業が立ち上げたものでもなく、むしろアムルット蒸溜所自体がメンバーの一人という具合です。グループから申請が来たので、参加させてもらっています。

中村大航:「アムルットフィーバーは、会社とかは全く関係ないファンのグループなんですね。そういうところに彼も入ってくれ、と言われて入っているわけです。私もいつの間にか入れられていたんですけど。そこ専用のボトリングとかもやっていたり。いつも、フェイスブックなどで盛り上がっています。フェイスブックでもグループがあるので、もしよかったら見てみてください。」

大航さんがこのセミナーを開催してくれて、とても楽しかった。そして、参加してくださったみなさま、アムルットのウイスキーを試飲していただいて感謝しています。

(質問)
参加者:「熟成環境が特殊だと思いますが、樽は基本寝かせているのか、一部立てているのか。どのような形で熟成させているのですか。樽の管理の仕方について教えてください。」

基本寝かせる形で熟成させています。

参加者:「高さは?」

1列11段の樽を並べることができます。ほとんどがラック式です。
どうもありがとうございました。

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