[ 緊急リポート]
世界で通用するウイスキーを!
産声をあげた、知られざる
インドのシングルモルト
インドは知られてないが世界一のウイスキー生産国、ウイスキー消費国である。 イギリスの「ドリンクス・インターナショナル社」が毎年発表しているデータによると、 世界のトップ10ウイスキーの中にインディアンウイスキーが 7 銘柄も入っている。 ただし、それらはモラセス(廃糖蜜)原料の安いウイスキーで、 国際基準ではウイスキーと言い難いものもある。 そんな中、「世界に通用するインディアンウイスキー」として登場したのが、 シングルモルトのアムルットとポールジョンである。 アムルットはインド南部のバンガロールに、そしてポールジョンは アラビア海に面した旧ポルトガル植民地のゴアに、蒸留所が所在する。 昨年(2017)暮れ、その2つの蒸留所を緊急取材した。 インドの知られざるウイスキー造りの現場をリポートする。
文 = 土屋 守 写真 = 渋谷 寛 、土屋 守
インディアン・ウイスキー【アムルット】
2004年に誕生したインド初の シングルモルトウイスキー
IT産業の中心地、インドのバンガロールに誕生したアムルット。 もともと製薬会社からスタートした蒸留所だったが、2004年にインド初となるシングルモルトを発売し話題に。 サンスクリット語で「人生の霊酒」を意味する、 アムルットの秘密を探る――。
きっかけは薬づくりの余剰アルコール!?
バンガロールは標高920mの高原都市。北緯は約13度で熱帯に位置するが、夏でもそれほど高温にはならない。そのバンガロール に1948年に創業したのがアム ルットだ。創業者は製薬会社を営んでいたラダ・クリシュナ氏。薬の製造過程で大量のアルコールが必要になるが、その余剰のアルコ ールで酒類の製造を始めたのがきっかけだ。
その後1985年に現在のウイスキー蒸留所を建て、ブレンデッ ドウイスキーを販売し始めた。それをグローバルマーケットで通用するシングルモルトとして発売することを思いついたのが、3代目 のラクシェット・ジグダリ氏。2004年にインドではなく本場スコットランドの、それもグラスゴ ーでインディアンシングルモルト の「アムルット」を華々しくデビ ューさせた。アムルットとはサンスクリット語で『人生の霊酒』を意味するという。
「彼はニューカッスルやグラスゴーのビジネススクールで学び、MBAも取得しました。早くからシングルモルトをグラスゴーでと考えていたようです」
そう話すのは 85年の開設以来アムルットで指揮を執る現工場長で副会長のスリンダーさん。この道30年以上というベテランだ。
アルコール収量は1トン当たり約350リットル
アムルットもポールジョン同様、 インド産の六条大麦を使う。やはりパンジャブ、ラジャスタン産だという。ポールジョンと違うところは、ピート麦芽はスコットランドから輸入していること。フェノール値は 15 ~ 20 ppmで、現在は 3 割がピート麦芽の仕込みで、7 割がノンピートだとか。仕込水は 5km ほど離れた専用の井戸から汲み上げ、毎日タンクローリーで蒸留所まで運ぶ。
ワンバッチの仕込みは麦芽1トンで、これで5000リットルの麦汁を抽出し、2回分を一緒にし て発酵槽に投入する。発酵時間は5日間とやや長く、できあがるモロミの度数は 6.5 %。スチルはやはりグジャラート産で現在は 3 基。ニューポットの度数は 62.8 %で、ポールジョン同様、加水をせずに樽詰めする。 1トン当たりのアルコール収量は低く、スリンダーさんによると、「350リットルくらい(100% アルコール換算)」という。エンジェルズシェアは 9 ~ 10 %で、これはポールジョンよりも、やや高い数値となっている。