スコットランド沿岸を航海する船、トリトン号。
ある月のない真っ暗な夜、荷物を積んで帰路についていたトリトン号は、突然座礁してしまった。…悪天候のせいではなく、邪悪な洞窟の妖精によって。
このイタズラ好きの妖精たちは、安らかに錨泊中の船を模した偽物を使い、浜辺から船を難破させていたのだ。
トリトン号は岩場で真二つになり、船長の娘であるグレースがただ一人、生き残った。
ようやく漂着した洞窟の中、湿った岩に付着するフジツボや、隙間から流れ込む雨水で、哀れに薄汚れたグレースは生き延びた。坑道のダンジョンに迷い込んだような、儚い存在だった。
ある日、グレースは、かすかに響くバグパイプの音を聞き取った。それはまるで涼しい渓谷に輝く太陽のようだった。
その音色をたどっていくと、船長の娘は、(今は亡き)忠実な猟犬を呼び出そうとしていたクランヤード湾のバグパイプ吹きの男と出くわした。
ふたつの哀れな魂は引き寄せ合うように結ばれ、やがて本当の親子のように親密になった。
こうして二人は日々を過ごしていたが、ある日、男が出口を探していると、グレースが意地悪な妖精に捕まってしまった。洞窟に戻ってきた妖精たちが、その邪悪な本性を発揮させて、グレースを自分たちの仲間に変身させてしまったのだ。
男はグレースの失踪に心を痛めた。彼女はあの漆黒の洞窟の中の唯一の光明、辛い日々を分かち合う仲間だったのだ。グレースの消息が分からなくなった男は、落胆した。さらにその上、邪悪な妖精たちから身を隠さなければならなかった。
こうして彼の運命は封じ込められ、名高いバグパイパーでもあった男は、もう二度と愛する音楽を奏でることはなかった。